熊野古道を歩いてみました。

脚の怪我をして以来、マラソンのトレーニングはしていない。
走れないし、クソ暑い時期は走る気も起きない。
でも歩くことはできるので、どこかへ歩いて出かけたくなった。

ちゅうわけで、以前から気になっていた「熊野古道」を歩いてこましたろと思い立った。
そうだ!よみがえりの旅だ。
熊野の神々が俺を呼んでおる。
そう思った。
言っちゃぁ何だが、熊野は招かれた人が行く神聖なところだ。

ガイドブックを熟読し、トレッキングシューズを履いて何度か足慣らしもした。

7月の金曜日から三日間の熊野古道歩きと四日目は熊野三山(本宮大社、速玉大社、那智大社)を参詣することにした。
日本最大のパワースポットで霊気を浴びてよみがえってこましたろやないか、と思ったのだ。

熊野古道はいくつかのコースがある。
私が歩いたのは“中辺路(なかへち)”というポピュラーで最も古道の雰囲気を残しているといわれるコースだ。
大阪経由で紀伊田辺まで電車で行き、紀伊田辺から古道の起点となる滝尻までバスで行く。
いよいよ滝尻から熊野本宮大社までの熊野古道が始まるのだが、いきなり想定外の急坂が始まるので呆然となる。
「熊野古道をナメとったら、あかんど!こらぁ〜」と怒鳴られている気分だ。

「す、すんまへん。ナメとりました。堪忍しとくれやす」と恐縮しながら急坂を登ることになった。
行けども行けども険しい上り坂が続くのだ。
息はゼーゼー、心臓はバクバク、膝はガクガク、汗はダラダラ。
早くも「やめとこか」と弱気の虫が疼く。

こんなはずではなかった。
熊野古道なんてハイキングに毛の生えた程度だろうとタカをくくっていたのだ。
最初の急坂でピリリと気持ちが引き締まった。
「よ〜し!そっちがそう来るなら、やったろやないか!」と闘争心に火がついた。

この後もアップダウンの激しい道が続く。
熊野古道をハイキング程度と思ったら大間違い。
山行の心構えで行かないとリタイアもあり得る。
途中、街路灯はもちろん自販機もなければ何もない。
宿に着くまでに日が暮れるとお手上げだ。
とても夜道を歩けるものではない。
携帯電話も通じるとは限らない(特にソフトバンクはダメだ)。
道は一歩足を踏み外せば千尋の谷へ転落する。
蛇にも出くわすし、蜂やアブもまとわりついてくる。
スリルがあってワクワクする。

奥深い熊野の山の中を歩いていると霊気を感じる。
昔から熊野は浄土の地という。
思い切り汗をかくので体中から毒が出ていき、それと入れ替わりに熊野の霊気をからだ一杯に吸い込むのでよみがえっていく気分だ。
慣れてくると、とても愉快で爽快な気分になる。
「う〜む、これが“熊野詣で”か、だから上皇たちはここを何度も行幸したのか。分かるよ。これじゃ、ハマるわな」
特に後白河上皇は33回も行幸しているのだ。
よほどハマっていたのだな、彼は。
それとも政争に疲れた心も体も浄化したかったのだろうか?
諸君も人生に疲れたり人生をやり直したい、と感じたときは行ってみるといいよ。
お勧めだ。

私は一人で古道を歩いていたのだが、その間誰一人出会う人はいなかった。
猛暑のときに歩くバカはいないらしい。
途中で熱中症にかかれば私の望む“野垂れ死”だ。
でも熊野の濃厚な自然を独り占めにし、満喫し、とてもぜいたくな気分を味わって帰って来たよ。

私はこれでまた一歩仙人に近づいた。