コンピュータのおかげ

私は過去にはまったく興味がないし、記憶もない。
街で知人に声をかけられたとしても名前が思い出せない。
若い頃からそうだったので「若年性認知症」だったのだろう。

だから「最近、歳のせいか、もの忘れがひどくなった」と嘆くこともない。
まさに天然の「一期一会」の人生だ。
相続税対策で相談に来られたお客さんの財産内容すら記憶に残らない。
管理しようという気にならないのだ。
だからお客さんの個人情報をいつまでも脳内に留めておくことはない。
私の脳は揮発性メモリー内蔵なのだ。
だから安心して相談に来なさい(笑)。

しかし、これではまずい(こともある)。
「あの~、田中ですけど、先日、相談した件の続きでまたお伺いしたいのですが……」
と言われると
「え~っと田中さんって誰だったっけな」
これが以前の私だったのだ。

ところが私は変わった。
メモ類はすべてスキャナーでコンピュータサーバーに取り込むし、日々の業務は EverNoteというアプリで記録する。
パソコン、iPad、iPhoneからいつでもどこでもメモを取り記録させるのでバッチリだ。
日々の行動はMovesというiPhoneアプリでライログを取っている。
今では「どこからでも来なさい」という気分だ。
私の貧弱な脳内揮発性メモリーでもこの仕事をやっていけるのはコンピュータのおかげだ。

税理士は税務書類を作成した場合や税務相談に応じた場合、その委託者ごと
に、かつ、1件ごとにその内容、顛末を記載しなければならない、と法律で決
まっている。
これが「税理士業務処理簿」というやつだ。
私の若い頃は「いちいち、そんなもの付けてられるかっ!」
と無視していた。
しかしこれでは業務監査などやられたら「戒告」処分だ。
いまではコンピュータのおかげで面倒臭い管理業務も楽々とこなしている。

しかし、これからの税理士の脅威は急速に発達する人工知能だ。
税金対策も税務申告も人工知能が税理士にとって代わるだろう。
近い将来、税理士などの専門家がいらない時代が来るのは目に見えている。
コンピュータのおかげで仕事ができ、コンピュータのおかげで仕事がなくなる日が来るかも知れない。