自分のために走り出し、誰かのためにゴールする

「余分なものは身につけない」、
「時間に縛られない」という信条で私は生きて来た。
だから、今まで腕時計を嵌めたことがない。
あんなものは邪魔だ。
時間なんて腕時計がなくてもどこでも見ることができる。
いまどき、ケータイやスマホさえあれば腕時計は無用の長物だ。
ましてロレックスやオメガなど高級腕時計を嵌めて悦に入っている者の気が知れん
わ!

てなわけで、私は以前から噂になっていたアップルの腕時計にも関心がなかった。
ネットで見る限り魅力的な機能はない。
どんな使い方ができるのかイメージが湧かない。
はっきり言って、ときめかないのだ。
それより新型MacBookの方が魅力的だ。
電話やメールが入ってきたらAppleWatchで受け答えできるだと?
鬱陶しいわっ!そんなもん!

AppleWatchに話しかければ答えてくれるだと?
「ヘイ!Siri。俺の家はどこ?」てな具合に。
「ヘイ、Siri」なんて言えるか!
私は一人の時間が欲しいのだ!ほっといてくれ。
というわけで予約日の4月10日になっても静観を決め込んでいた。
が、しかし……
アップルファンのPodCast番組を聴いているうちに心がざわついてきた。
そのうち、もう一人の自分の声が聞こえてきたのだ。
「この機会に買わんでど~するっ!おまえはそれでもアップル信者か」
「おまえの左手首は、この日のために空けてあったのではないのか!」
「役に立つかどうかは、使ってみないと分からんだろ」と。

「う~む。おっしゃるとおり」と思った途端、アップルのホームページ上で予約ボ
タンを押してまったがや。
しかしなぁ、予約が遅れたせいで出荷予定日が5月下旬だとよ。
ゴールデンウイー
ク中、AppleWatchで遊べるかと思ったのに……。
こうなったら徹底的に使い倒してこましたろ。
色々な機能をマスターする必要はない。
どれか一つか二つ徹底的に使いこなせば、生活スタイルが変わるはずだ。
かつて、スティーブ・ジョブズはコンピュータのことを「知的自転車」
と言った。

人間を含めた地上の様々な動物の運動効率に関する研究で、A地点からB地点へ最小
限のエネルギーを用いて移動するときに、どの種が一番効率が良いかの研究がアメ
リカの研究機関で行われた。
結論は、コンドルが最高だった。
人間は下から数えて3分の1のところ。
しかし、人間が自転車を利用した場合、その結果はコンドルの倍の効率を見せてダントツのナンバーワン。
自転車を使えば人間の移動効率は動物たちを超えることができる。
ここからジョブズはコンピュータのことを知的自転車と言ったのだ。
てことはAppleWatchを身につけて活用することができれば私の日常の作業効率は
飛躍的に向上する(かも知れない)のだ。

コンピュータのおかげ

私は過去にはまったく興味がないし、記憶もない。
街で知人に声をかけられたとしても名前が思い出せない。
若い頃からそうだったので「若年性認知症」だったのだろう。

だから「最近、歳のせいか、もの忘れがひどくなった」と嘆くこともない。
まさに天然の「一期一会」の人生だ。
相続税対策で相談に来られたお客さんの財産内容すら記憶に残らない。
管理しようという気にならないのだ。
だからお客さんの個人情報をいつまでも脳内に留めておくことはない。
私の脳は揮発性メモリー内蔵なのだ。
だから安心して相談に来なさい(笑)。

しかし、これではまずい(こともある)。
「あの~、田中ですけど、先日、相談した件の続きでまたお伺いしたいのですが……」
と言われると
「え~っと田中さんって誰だったっけな」
これが以前の私だったのだ。

ところが私は変わった。
メモ類はすべてスキャナーでコンピュータサーバーに取り込むし、日々の業務は EverNoteというアプリで記録する。
パソコン、iPad、iPhoneからいつでもどこでもメモを取り記録させるのでバッチリだ。
日々の行動はMovesというiPhoneアプリでライログを取っている。
今では「どこからでも来なさい」という気分だ。
私の貧弱な脳内揮発性メモリーでもこの仕事をやっていけるのはコンピュータのおかげだ。

税理士は税務書類を作成した場合や税務相談に応じた場合、その委託者ごと
に、かつ、1件ごとにその内容、顛末を記載しなければならない、と法律で決
まっている。
これが「税理士業務処理簿」というやつだ。
私の若い頃は「いちいち、そんなもの付けてられるかっ!」
と無視していた。
しかしこれでは業務監査などやられたら「戒告」処分だ。
いまではコンピュータのおかげで面倒臭い管理業務も楽々とこなしている。

しかし、これからの税理士の脅威は急速に発達する人工知能だ。
税金対策も税務申告も人工知能が税理士にとって代わるだろう。
近い将来、税理士などの専門家がいらない時代が来るのは目に見えている。
コンピュータのおかげで仕事ができ、コンピュータのおかげで仕事がなくなる日が来るかも知れない。