東京マラソン事務局からメールが入った。
「東京マラソンに当選されました」との連絡だ。
実は私は東京マラソンにエントリーしていたことすら忘れていた。
私は東京マラソンのプレミアム会員として登録をしており、その特典として先行予約をしていたらしいのだ。
予約をするときは脳で考えずに脊髄反射して申し込んだので、すっかり忘れていた。
「あちゃ〜、当選してまったがや。」という心境だった。
左脚を故障してからは走るトレーニングをしていない。
だから脚力はすっかり衰えてしまって、フルマラソンを走れるような状態ではない。
しかし、人も羨む東京マラソンの当選の権利は譲渡不可となっているので誰かに譲るわけにもいかない。
ちゅうわけで「もう一度走ろう!走ってこましたろ。再起するのだ!このまま終わってたまるか!不死鳥のように復活したろやないか、俺はフェニックス!」
とアドレナリンを脳内に分泌させて、やる気満々で練習を開始した。
いつも走っていた山崎川沿いの桜並木の堤を走ることにした。
しかし、この再起を期した初日のトレーニングで脚がもつれて転倒してしまった。頑張りすぎた。
いっちょまえにラストスパートをかけたので、体が前のめりの状態で足がもつれ、顔面から転倒して、血だらけになった。
顔面制動だ。
この山崎川沿いの並木道は桜とともにウォーキングの名所だ。
歩いている人たちが大勢いる。
その人たちが心配して救急車を呼んでくれた。
自分では単に足がもつれて転んだだけの「ただの怪我」なのだが、この歳でジョギング中に転ぶと脳卒中か心筋梗塞ではないかと心配してくれ、立ち上がろうとすると「動かないで!動いちゃダメ!」と制止される。
それに大勢の人たちが周りに集まってきて、人だかりができて、恥ずかしくなってしまった。
いやはや「お騒がせして申し訳ない」。
救急車がサイレンを鳴らしてやって来た。
生まれて初めて救急車に乗って、名古屋市立大学病院へ搬送された。
「頼む!大げさにしないでくれ!俺は大丈夫なんだから」と言っても容赦してもらえない。
心電図とか血圧とか検査に次ぐ検査だ。
うちのカミさんもびっくりして飛んできたが、大したことはないので安心したらしく「少しは、おとなしくしててちょうだい」とあきれ顔だった。
しかしなぁ、つくづく思ったよ。
歳には勝てん。
無理をしたらあかん、と……。
怪我をした左脚がまだ完全に回復していないので左右のバランスが悪いのだ。
それより何より気持ちと体のバランスがとれておらんのだ。
もう若くはない、ということを脳が分かっとらん。
走っている最中に転ぶなんて歳を食った証拠だもんなぁ。
でも私はあきらめない。
また東京マラソンを走ろう、あの沿道の大勢の人たちの熱い声援のなかを走る感動をもう一度味わうのだ。
「やりますよ、ボクは。」