理由付記

平成23年度税制改正で納税環境の整備ということで国税通則法が改正された。
なかでも実務で影響が出てきそうなのが「理由付記」である。
平成25年1月1日から施行されている。
納税者に不利益な処分をする場合には、税務署はその理由を付記しなければならなくなっ た。

今までそんな規定はなかったの?
とびっくりされた方もおられるかも知れない。
行政手続法にはもともとこういう規定があったらしい。
これを税務上も法定化したのだ。

税務調査を受け、その結果、申告に誤りがあれば「修正申告に応じたらどうや」と税務署 から納税者に勧める(これを修正申告の慫慂(ショウヨウ)という)。
そしてほとんどの納税者 が「しゃ~ないなぁ」と、それに従っていた。
納税者が税務署の指摘に納得すればそれでよいのだが、実際は納税者が納得していないにもかかわらず、修正申告するようにプレッシャーをかけてくる。
なぜなら、納税者から修正申告が出てくれば税務署としては後腐れ(後から不服申立や訴訟などを受けること)がなく終わるので、税務署は執拗に修正申告を迫るのだ。
それどころか修正申告に応じるように納税者を説得するのが税理士の仕事だと勘違いしている税務職員すらいる。

諸君!納得できなければ修正申告に応じてはならない。
特にこれからは理由付記が制度化 されたことにより、なぜ、追徴されなければならないのか、納得できるまで文書で説明してくれと言えばよいのだ。
税務署から更正(追徴)処分を受けることになれば、必ず理由付記が なされるはずだから、その理由を熟読して更正処分を受ければよい。
更正処分を受けた後、 素直に税金を払ってもよし、争ってもよし、である。
修正申告に応じても何のご褒美もない。
税務署と争うばかりが能ではないが、何も税務署の言いなりになることはないのだ。

税金は税法という法律を根拠に納税者の懐に手を突っ込んで国民から金を収奪するものだが、税法には国から納税者を守る役目もあるのだ。
理由付記が制度化されたことにより税務署員はやりにくくなったことだろう。
役人は他人の書いた書類にケチをつけるのは得意だが、 自分の書いた書類をチェックされるのをとても嫌がる。
だから理由付記の文書を書くとき筆 が進まず、業務が停滞する。
それが理由で最近は税務調査が激減している。

税金は法律に基づかなければ課税も徴収もできない。
これを「租税法律主義」というのだが、税金の世界では、法律にがんじがらめになっているのは実は納税者の方ではなく、税務職員の方なのだ。
納税者もチマチマした節税対策に頭を絞るより、租税法律主義という考え方に馴染んだ方がよい。
税務職員に対して可哀想に、という憐憫の情を抱いてあげれば、「お 勤め、ごくろうさん、頑張れよ」と声をかける余裕もできる。
そう考えれば、税務調査など 怖くも何ともないのだ。